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仮名手本忠臣蔵 七段目 祇園一力の場
(70周年記念公演 40分 105M)
(Windows Media Player)
仮名手本忠臣蔵 七段目 祇園一力の場
(70周年記念公演 40分 15M)
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浄瑠璃 <三味線・・・所も名高き播磨の国、多可の郡の中町のベルディーホール、今日のよき日に大入り給う播州歌舞伎は、嵐獅山一座の結成70周年をことほぎて祝うことこそめでたけれ>
ここは祇園の一力茶屋。大星由良之助は吉良方の目をごまかすため、連日遊蕩にふけっています。そこへ息子の力弥が敵の様子を知らせる密書を持ってきますが、お軽はそれを2階から手鏡に映して読んでしまいます。それに気づいた由良之助は、一階へ降りてきたお軽に・・・。
由良之助 軽、先ほどの由良あての手紙、見たであろうのう。
お軽 何じゃやら面白そうなお文だと
由良之助 読んだか。読んだなら仕方がない。それはそれとして、そちとの馴染みも浅いのじゃが、武士の体面もあることじゃし、今宵そちを三日間、身請けしたいのじゃが、どうじゃ。
お軽 由良さん、3日でござんすぞえ
由良之助 ああ、三日、ただ三日じゃ。夫があるなら添わしてやる。心配するな。そこで待っておれ。 
(言いすがる軽を押さえて、大星由良之助、奥へ消える)
お軽 3日でござんすぞえ。ヤレヤレ嬉しや嬉しや、この廓に来て半年経つや経たずのうちに、はや身請けされるとは・・・。この事を在所のととさんやかかさんに・・・。そうじゃそうじゃ。
浄瑠璃 <折にいで合う平右衛門>
平右衛門 (奥から)左様でごわりますか。成る程なあ。さすが天下の一力茶屋、広いものじゃ。どこがどこやらさっぱり分からぬ。したが、この廓に確か妹・軽 がいるはず。オ、あれなるお女中にちょっともの申してみようかい。申しちょっとお尋ねいたしまするが、この郭(くるわ)に山崎から来ましたた軽という・・・。
お軽 わたしゃ今忙しいので、あっち行って聞いて下しゃんせ。
平右衛門 これはまた、廓の女というものは意地の悪いものだ。申しお女中、この廓に山崎から来ました軽という女・・・。
お軽 あって行って・・・。
平右衛門 でもまあ、そんなこと言わずに、何卒この奴に、教えなされて下はりませ。山崎から来ました軽、軽で御座りまする。
お軽 何んじゃいなあ、お前がさいぜんから私の耳元で軽、軽と言わしゃんすが、お前の言う事、みんな書いたじゃないかいな。何じゃ、山崎から来た軽?軽とは私でござんすが、そういう(二人顔を見合わせて驚く)お前は、兄さん?
平右衛門 オオ、わが身は軽ではないか。軽、軽・・・。
お軽 兄さん、面目ない、面目ない。
平右衛門 妹、なに面目がる事あるかい。そなたのことは在所へ帰ったうえ、母者人(ははじゃびと)から何もかも聞いて知っておる。
お軽 そんならお前、叱ってじゃないかえ。
平右衛門 何の叱ってよいものか。叱るどころか、兄は褒めてやるわい、褒めてやるわい。
お軽 左様でござんすか。ならお前、何と立派にならしゃんしたな。
平右衛門 しかしわれも立派でなにより・・。立派にななものじゃ。一寸そこにちょっ立ってみい。
お軽 兄さん、こうでござんすかえ。
平右衛門 オオ、ちょっとそっちに向いてみい。
お軽 兄さん、こうでござんすかえ。
平右衛門 オオ、立派立派。いやもう、そなたが妹でなければ、この兄は惚れるぞよ、惚れるぞよ。
お軽 兄さん、てんご言わしゃんすな。ところで兄さん、お前、さいぜん在所に寄って来やしゃんしたと言わしゃんしたなあ。
平右衛門 オオ、言うたぞよ、言うたぞよ。
お軽 そんなら、アノ、アノ、ととさんは達者でござんすかえ。
平右衛門 何じゃ、親父さんか。親父さんは・・・。
お軽 アイナアー。ととさんはえ?
平右衛門 親父殿は・・・マアマア達者やのう。
お軽 そうでござんすか、そんなら、あの、かかさんはえ?
平右衛門 妹、喜べ、母者人は達者なぞ。あのお年にも似合わず、朝も早うから野良仕事。目がねもかけずに針仕事。いやもう、生きのよい鯛のようにピンピンピ ンピンはねてござるわい。
お軽 そうですか、そんなら兄さん、あの、か、角の豆腐屋の娘さんはえー。
平右衛門 なに、角の豆腐屋の娘? オオ、そういえばあの豆腐屋の娘は確か、そなたとは寺友達であったな。ああ、あの娘ごも豆腐屋の娘、豆じゃ、豆じゃ。
お軽 そんなら、豆腐屋の娘さんもまめでござんすね。そんなら兄さん、あのか、か・・あにさん、もうよい加減に推量して下しゃんせ。
平右衛門 先ほどからカアカアカアと、カラスが鳴いているように言うているが、ひょっとしてわが身の夫、早野勘平の事ではないか。
お軽 達者かえ、達者でござんすかえ、達者かえ。
平右衛門 か、か、勘平は・・・ま、まあまあ達者やのう。
お軽 そうかえ、そうかえ。あにさん、わたしゃこのような嬉しい事はないわいなあ。兄さん、嬉しついでに、おまえに喜んで貰うことがあるぞえ。
平右衛門 何じゃい、久しぶりに出会うたこの兄に、喜んで貰うこととは、それはまた一体どういう事じゃ。
お軽 わたしゃ今宵のうちに身請けされるわいなあ。
平右衛門 なに身請け? まだこの廓へ来てから日も浅いそなたが身請け?・・そりゃまた目出度いことじゃが、そなたを身請けするお大尽様はいづれのお武家様 じゃ。
お軽 由良さんえ。お前も知っての大星由良之助様じゃわいなあ。
平右衛門 何じゃ、大星様、それじゃあの御家老・・・。
お軽 アイナアー
平右衛門 ウーム。 (しばらく考え込む) そりゃ、そうのうては叶わぬ所、そなたが早野勘平の女房という事をご存じの上での身請けであろう。
お軽 なんのなあ、親、夫の恥になる事を、話しましょうぞいなあ。
平右衛門 そりゃそうじゃ。そうじゃなあ、察するところそなたがお城勤めの時に御家 老様と顔見知りに・・・。
お軽 なんの、酒の相手に出たばかり・・・。
平右衛門 何じゃあ、そんなら勘平の女房という事もご存じなく、お城勤めからの顔染みでもなく、ただ酒の相手に二、三度出たばかりにて、そなたを身請け。
ハハーン、察するところ、御家老様には世情の噂に少しもたがわず、本心残らず仇討ちの所存はねえのだな、ねえのだな。
お軽 あにさん、あるぞえ、あるぞえ。
平右衛門 あるとは何が?
お軽 高うは言われぬ、これあにさん。
平右衛門 (平右衛門、耳をほじくって叫ぶ)さあ、何んぼでも話せ。
お軽 はい、なあ・・・。
浄瑠璃 <こう、こうと囁けば・・・・>
平右衛門 そんなら何か、それなる文を残らず読んだその上で・・・。
お軽 上から見下ろす、下から見上げる顔と顔、それからじゃら、じゃら、じゃらと、じゃら突き出して、身請けの相談 ・・・。
平右衛門 一寸待てよ、上から見下ろし、下から見上げ、じゃら、じゃら、じゃら突き出して、身請けの相談、ちょっと待てよ・・
( 平右衛門のパントマイム)
平右衛門 アッ!! (大声で)それで様子がさらりと知れた。
(平右衛門、深々と頭を下げる)
平右衛門 左様でごわりまするか。あーっ愚か者、愚か者。御家老様の、それ程までの深い御心とは露知らず、先ほどよりの悪口雑言・・
お軽 あにさん、あにさん、そっちには、誰も居やせぬわな。
平右衛門 誰も居やせぬのに、この兄が米つきバッタのように頭を下げる。気狂いの沙汰に見えるか。
お軽 アイナアー
平右衛門 そうじゃろ、そうじゃろ。したが妹、久方ぶりに出会うた兄が、そなたに頼みがあるが、何とか聞いてはたもらぬか。
お軽 その頼みとはえ。
平右衛門 オー、その頼みとはなあ。
お軽 その頼みとはえ。
平右衛門 その頼みとは! 軽、われの命は兄が貰うた!(平右衛門パッと上衣を脱ぎ、刀を抜いてく立ち回り。軽、懐紙を撒きながら下手へ逃げる)
お軽 これ、兄さん。私しゃ勘平さんという夫のある身。お前のままにはならぬぞえ。とさあ、言うたが悪けりゃあやまりましょう。堪忍して下しゃんせい。
浄瑠璃 <手を合わすれば平右衛門、抜き刃をその場に投げ捨てて、しばし涙にくれけるが>
平右衛門 こりゃ妹、訳も分からずに斬りつけたは兄の誤り、そなたには言うて聞かせねばならぬ事があるよって、こっち来い、こっち来い、こっち来い。
お軽 兄さん、わたしゃ行かれぬわいなあ。
平右衛門 何で来れんのじゃい。
お軽 その刀が怖いわいなあ。
平右衛門 何じゃ、刀が怖い。そなたも早野勘平という立派な侍の女房でないか。刀が怖い・・・。エーイ、しょうことがない、刀が怖いとあれば、刀は鞘にしも うてやるわ。さあ、ここに置いてやいる。(刀を入り口に立てかける)  さあ、早う来い、早う来んかい。
お軽 お前がそのように大きな目をして居やしゃんすと、わしゃまだ行かれぬわいなあ。
平右衛門 こりゃ兄の生まれつきじゃ。この目を恨むなら母者人を恨め、恨め。それほどまでに言うのなら、ササ、ここで目はこうつぶってやるわ。腕もこう組ん でやるわ。これなら来れるじゃろ。サア、はよ来い、はよ来い。
お軽 兄さん、そんなら、いま行くぞえ、いま行くぞえ。(軽、兄のもとへ行く)
兄さん来たが、何じゃぞいなあ。
平右衛門 けわい化粧に身をやつし、その日その日をうわの空。不憫な、わりゃ在所の事は何んにも知らねえのだな。
お軽 兄さん、わたしは何も知らぬと言わしゃんすが、はよう聞かせてくだしゃんせ。
平右衛門 オオ、言わいでかい、言わいでかい。その訳とはなあ、そなたが年季奉公無事すませ、一生親孝行しようとする親の与一兵衛殿はなあ、去年6月29日の夜、人手にかかって、お果てなされたわい。
お軽 そんならあのととさんが、人手にかかって、人手にかかって、アー
      (お軽、泣き崩れる)
平右衛門 なに驚く事があるかい、まだ後には、どどど、どてらいのがあるわい。
お軽 まだあるとは気がかりな、早う聞かせてくだしゃんせ。
平右衛門 ああ、言わいでかい、言わいでかい。そのどてらい事とはなあ、そなたの夫早野勘平は、勘平は。
お軽 勘平さんがえ。
平右衛門 勘平は。
お軽 勘平さんはえ。
平右衛門 勘平は、勘平は。かかか・・・ 勘平はやっぱり勘平じゃ、勘平じゃ。
お軽 何の事じゃいなあ。ア、聞こえた。勘平、勘平と言わしゃんすは、そんなら勘平さんによい女房さんでも出来たのかいなあ。
平右衛門 おきさらせ。そんな陽気な話じゃあらせぬわい。
お軽 そんなら兄さん、どうじゃぞいなあ。
平右衛門 わが身の夫・早野勘平はなあ、言い訳立たざるその為に、四十余人に先がけして、腹切って死んだわやい。
お軽 そんなら、あの勘平さんが腹を切って、あの勘平さんが腹を切って・・・
腹、腹、イエー、アアア・・・(お軽、取り乱す)
平右衛門 サササ・・・アア、妹、軽・・・。
お軽 アー、アー、アー・・・。
平右衛門 何じゃ、何じゃ、何じゃ。勘平の一匹や二匹、腹を切ったからとて、目を回すやつがあるかい。しっかりせい、しっかりせい。
 (あわてふためく平右衛門。何とかお軽に水を飲まそうとする)
 ・・・はよ飲め。さあ、飲め。飲め、飲め。水、水、水・・・。ああ、兄が飲んでしもうた。(刀の鞘にしゃくを括りつけ、水をくむ)【写真
 さあ、飲め、飲め。 歯を食いしばって水が飲めるかい。そうじゃ、妹、われの命は兄が貰うた。(お軽、びっくりして水を飲む)オットどっこい、のるな、のるな、のるな 妹、お軽ヤーイ。
お軽 兄さんどうしよう、どうしよう、どうしようぞいのう・・・。
平右衛門 様子話せば長いこと。思い出しては泣き・・・この事ばかりは、軽のことをなだめ、必ず言うてくれるなという母者人のかたい口止めなれどなあ・・言わねばならぬ今宵の仕儀。そなたが見たる手紙というが、並大抵の手紙じゃあらせぬわい。大事の書状を見たるそなた、ほかほかに漏れては一大事と、色に事寄せ身請けなし、人無き所へおびき出し、ばっさりやらん心底は、余人は知らねど、この兄、平が睨んだまなこは八寸まな板、よもや違いはありゃせぬわい。遅かれ早かれない命なら、兄の手にかかって死んでくれ。我が妹ながら、大事な書状を見たる妹、まっこの通りと、それを手柄に東(あずま)の供をな。
浄瑠璃 <小心者の悲しさは>
平右衛門 人に勝った手柄を立てねば、兄の東のお供はかなわぬ。兄に手柄を立てさせてくれ。兄に討たれて死んでくれ。妹とは思わぬ。兄の方から手手、手を合わせて頼むわやい。
浄瑠璃 <事をわけたる兄の頼み、お軽は始終咳き上げ、咳き上げて、頼りのないは身の代を、役に立てての旅立ちか。暇乞いにも見えそなものと、恨んでばかり居りました・・・>
二人 アアー (お軽・平右衛門大泣きする)
お軽 もったいないがととさんは、非業の死でもお年のうえ。勘平さんは三十に。
浄瑠璃 <なるやならぬで、死ぬるとは・・・>
平右衛門 さぞ、会いたかったであろうのう。
お軽 アーイ
浄瑠璃 <会いたかったであろうのに、なぜ会わしてはくだしゃんせぬぞいのう>
お軽 夫の精進さえ知らぬ私の身の因果。何の生きておりましょう。
平右衛門 そんなら軽、命をくれるか。覚悟はよいか。
お軽 兄さん、待って。
平右衛門 待てとは妹、おくれたか。
お軽 おくれはせねど、これあにさん、少し・・・。
浄瑠璃 <お手にかかればかかさんも、おまえをお恨みなさんしょう・・・>
お軽 私が自害したその後で、お役に立ててくだしゃんせ。
平右衛門 よい覚悟じゃ。さあ、今が最後じゃ、観念せよ。
お軽 南無阿弥陀仏・・・
浄瑠璃 <すでにこうよと、見えたれば・・・>
由良之助 (奥から声)待て平右衛門、早まるな。
平右衛門 あのお声は、ご家老様・・・
浄瑠璃 <止むる声は、由良之助>
由良之助 心底見えた、東への供、許してつかわす。
平右衛門 何そりゃ、東のお供かないますとな。
由良之助 いかにも。
平右衛門 東のお供を、東のお供を、妹、兄のお供が叶うた、叶うた、叶うた。
ネネネネ、有り難うごわりまする。 (心底喜んで、深々と頭を下げる)
< 浄瑠璃 >
由良之助 それにつけても早野勘平、仇一人も討たずして切腹とは、さぞ無念であろう。未来で主君に対して申し訳が立つまい。その申し訳は、軽、これに参れ。
お軽 アイ。 (由良之助、お軽を連れて入る)
浄瑠璃 <下には九太夫、肩先縫われて七転八倒>
由良之助 平右衛門、そやつを引きずりい出せ。
平右衛門 ねい。 (男を連れてくる) やや、こやつ強欲非道の斧九太夫にござりまする。
由良之助 九太夫、獅子身中の虫とは、汝の事を言うわいやい。四十余人の者共は、親に別れ、子に別れ、一生連れ添う女房まで、君傾城の務めをさするは何の為、ただ亡君の仇(あだ)が報じたさ。寝覚めにもうつつにも御切腹の折柄を、思い出しては無念の涙。こりゃー 、ウーム(九太夫を打ち据える)
< 浄瑠璃 >
由良之助 とりわけ今宵は殿の逮夜、逮夜は命日よりもなお大切と、口には諸々の不浄を言えど慎みに、慎みにを重ねるこの由良之助に、よくも魚肉をつき付けおったの。否と言えず、応と言えず、喉を越したるその時は、四十四の骨ぼねも砕くる様にあったわやい。
浄瑠璃 <土に擦りつけねじつけて無念の涙に暮れにけり>
由良之助 こりゃ、平右衛門。こやつを酔いどれと見せかけて、賀茂川の水雑炊を喰らせよ。
平右衛門 ねい。  (九太夫を連れ出す。ややあって、水音の太鼓)
由良之助 平右衛門、これなるやわた竹、打ち砕いて刀のめぐぎに致せ。
平右衛門 ヘヘイ。 (と平右衛門が受け取ったのは、実は連判状)
(連判状を広げ、お軽の前で血判を押す)
平右衛門 御家老・大星由良之助様。足軽・寺岡平右衛門、確かに血判。
由良之助 ア、コリャ。激しき夜半の嵐じゃのう・・・。
< 浄瑠璃 >
(幕)