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御所桜 三段目 弁慶上使の段前半
(29分 74.7MB)
御所桜 三段目 弁慶上使の段後半
(32分 82.7MB)
御所桜 三段目 弁慶上使の段前半
(29分 11MB)
御所桜 三段目 弁慶上使の段後半
(32分 12.2MB)
  • 振 付・・・播州歌舞伎・嵐獅山一座  中村和歌若
  • 太 夫・・・竹本粋龍(長浜市)
  • 三味線・・・豊澤賀祝(長浜市)
  • 狂言方・・・加古美穂
  • 鳴り物・・・笹倉真由美
  • 黒 子・・・山下新吾
  • 衣装・・・中村小夜子、横山小夜子、松井一美
  • 解 説・・・大西花奈
  • 武蔵坊弁慶・・井上文夫、おわさ・・山根加織、しのぶ・・吉田 綾、侍従太郎・・・吉田志帆、花の井・・松井梨花、卿の君・・笹倉恵美
  • 世話役・・・橋本 衛
  • 撮 影・・・世登輝美 
三 重 めでたけれ。播磨路の、誇りも高き中町に播州歌舞伎クラブの10周年を寿ぎつ、今日のよき日に大入り給う花舞台、またも来春NHKホールにて「全国ふるさと歌舞伎フェスティバル」に、寿式三番にてあいつとめまする。
                   ・・・皆様、 ごひいきを。
陰から 御上使
侍 従 なに、御上使とな。ソレお出迎えを。
浄瑠璃 <お入り。・・・供もあらせず入り来るは、掘川御所に隠れなき、武蔵坊弁慶。・・・へり塗り取って打ちかづき、大紋の袴ふみしだき、むづと座して一礼し・・・>
弁 慶 存じたとは違うて、みずみずとした御顔色。まずは、安堵仕る。
浄瑠璃 <申し上ぐれば、卿の君>
卿の君 オオ、めずらしや、武蔵坊。わが君様にも、御機嫌ようましますかや。
浄瑠璃 <お言葉あれば、武蔵坊>
弁 慶 その仰せのすこやかさ。これと申すも、侍従殿ご夫婦のお育てがらの甲斐が見え、まずは祝着に存ずる。
侍 従 これはこれは御挨拶。ご主人ながら御平産(へいさん)あるまでは、わが館に預り奉る卿の君様。義経公の御前、幾重にもお取りなしを。
弁 慶 アイヤ、その取りなしには及ばぬこと。すべて取りなしというは、かなり八合なる事を十分に言うが取りなし。この弁慶、それ嫌い。見た通り真直ぐ君に申し上げなば、君にもさぞや御満足。これからの話は、侍従殿ご夫婦への話ではござらぬ。卿の君様、ようくお聞き下され。総じて武士が戦場へ赴くときは、三忘と申して忘るる事が三つござる。まず、國を出ずる時は家をば忘れ、境を過ぎる時には妻子を忘れ、すわ戦場に臨んではわが身を忘るる。婦人懐胎も真っそのごとく。すでに月満ちお産の紐を解かるるは、勇士戦場に臨み、よき敵ござんなれと引き組んで、首を取るか、取らるるか、よい子を生むか、よう生まぬか、生きるか死するか、生死の境。すでになき身と思し召 さば、その期に臨んで未練なふるまい、いたされるな。ウフハ、ウフハ、ハハハハ ・・・。拍子に乗って馬鹿なこと、ウフハ、ハハハハ。肝心の内談、遅うなった。何かの事は奥殿にて、侍従殿。
卿の君様には、まずは入らせ遊ばされましょう。
侍 従 イザ、お通り、御案内。
浄瑠璃 <侍従夫婦が先に立つ、後に引添ふ武蔵坊。鎌倉殿の難題を、つい打ち明けて言いばえに、しばらく心、奥の間に打ちつれー(間)ウーム、エー、エー、エイー(弁慶の入り)・・後打ち見やり腰元しのぶ>
しのぶ さらば、この間にちょっと母(かか)さんに。
浄瑠璃 <この頃は、お顔も見ず、おなつかしやと立ち寄れば・・・>
おわさ オオ、そなたも息災(そくさい)で嬉しい嬉しい。コレしのぶ、たとへ御前様の御意に入(い)るとも、必ず必ず傍輩衆(ぼうばいしゅう)を袖にすな。出かし立てして嫉まるるな。林の中でも高い木は・・・。
浄瑠璃 <風が枝をば折るぞよと>
おわさ 一人寝覚(さ)めの度ごとに、ためておいた数々も、逢(あ)へば嬉しうて口へは出ぬ。 何を言うても身が大事、煩(わずろ)うてばし、給(たも)んなや
浄瑠璃 <手を取り交わす親と子の、わりなき風情ぞ道理なり。ややあって侍従夫婦、奥より出づるも屈託顔。おわさ見ばやく>
おわさ これはこれはお二人様。どうやらお顔の色悪う、お気の浮かぬ御容態。御内談とは、マ、何事でござりまする。
浄瑠璃 <言うに花の井、差し寄って>
花の井 サレバイノウ。きょう武蔵殿来られしは、義経公には反逆人・時忠の娘、卿の君を妻と定めいるからは、これ同腹。一味でなくば姫君の、首討って渡せよと、鎌倉殿の御難題。
浄瑠璃 <お小さいより夫婦の者が手塩にかけ、育て上げた姫君様、そもやお首が切れようか。何で刃(やいば)が当てらりょう>
花の井 弁慶殿も打ちかねて、とつおいつ思案の上、お身代りを立てまいか。サ、そのお身代りに誰かれと詮議の上、年の頃、みめかたち、面ざし似たる、それその信夫(しのぶ)。ササ、夫婦の者の苦しみを、推量(すいりょう)してたもいのう。
侍 従 浮世の中の無心というに、これに上こす無心はあるまい。惜しまぬ命は二つあれど、一つも今日のお役に立たぬ。本意(ほい)なさ、無念さ、悲しさを、推量致せ親子の者。
浄瑠璃 <始終の様子聞くしのぶ、涙を押へ傍により>
しのぶ 十年(ととせ)にあまる宮仕へも、たった一日御奉公申しても、お主(しゅ)様には違いはない。ふつつかな私でも、お役さへ立つならば・・・。
おわさ ア・コレ、ア・コレ、コレしのぶ。何をコレ、母をさておき、つかつかと物言やんな。コレそなたは、そちへ行っていや。コレ何を・・・。
ハイ、ハイ、ハイ、イヤ申し、この子は、アノ、私一人で出来た子ではござりませぬ。顔も知らず名も知らぬ、父親(てておや)がござりまする。その父親に手渡しするまでは・・・。
侍 従 アア、コリャ、コリャ、コリャ、いかにうろたえばとて、母親ばかりで出来る子が、三千世界にあろうと思いおるか。その上、顔も知らず名も知らぬ父親を尋ね手渡しするとは、何を証拠に尋ねるぞ。あのここな偽り者め。
コリャヤイ、子心にさえ、主従の道をわきまへおるに、ハーァ、見下げはてたる女め。娘を連れてはよ帰れ、はよ帰れ。ササ、花の井こちへ。
浄瑠璃 <と立上る。のうー、コレ、待って下さりませ>
おわさ 偽り者と言われては、親ゆえこの子の道立たず。顔も知らず、名も知らぬ、夫を尋ねるしるしはコーレ。
浄瑠璃 <上の一重を押し脱げば、右は変わらぬ詰め袖に、左ばかりは振り袖の、濃き紅(くれない)の染め模様。橘ならぬ袖の香の昔ゆかしく、忍ばしく。娘が聞くまえ恥しき、昔ばなし・・・>
おさわ もと私は、播州姫路の近在福井村、本陣の何がしこそ、私の父母。十八年以前、頃は夜も長月の二十六夜の月待の夜、あまた泊りの、その中に・・・。
浄瑠璃 <二八(にはち)あまりの稚児(ちご)姿。こっちに思へばその人も、すれつもつれつ相生の、松と松との若みどり、つゆの契りが縁のはし。オオ、恥かしや、つい暗がりのまころび寝に、つらや人の足音に、恋人も驚きて、起きゆくたもとを引かゆるを、振切り急ぎゆく拍子に、ちぎれてわが手に残りしは、この振袖。仮(かり)寝の情は浅けれども、妹背(いもせ)の縁や深かりけん。
・・・その月より身重懐胎し>
おわさ 跡にて何と詮方(せんかた)も、産み落せしはこのしのぶ。縁あればこそ子までもうけしもの。この振り袖をしるべにて、再び尋ねあわんと、マ、国を・・・。
浄瑠璃 <さまよいめぐりし憂(う)き艱難(かんなん)。アアー、いまに尋ね逢わねども、女の念力、これこそは娘よ父よと名乗り合いするそれまでは・・・>
おわさ 身にも代えぬ大事な娘、お役に立てぬは右の訳。卑怯未練でない申し訳、娘には、どうぞお暇を下さりませ。コレしのぶ、サ立ちゃ立ちゃ、エエコレハシタリ、立ちゃいのう。
浄瑠璃 <と言えど立ちかね、見捨てかね、親子心の隔ての一重。始終聞き入る武蔵坊、しのぶが背ぼね障子越し、ぐっと刺(さ)いてひとえぐり。ウーンと悶(もだ)ゆる苦しみに、傍で見る目の三人は、呆れ果てたるばかりなり。母は泣くやら、気は狂乱・・>
おわさ これしのぶ、しっかりしや、これしのぶ。しっかりしや、これしのぶ、アーこれしのぶ、しっかりしや、これしのぶ。これしのぶ、これしのぶ、これしのぶ。しっかりしや、しっかりしや、しっかりしやえのうー。・・・さては夫婦と言い合せ、大事の大事の娘をば、むごたらしゅう殺しやったなぁ。サササ、元の様にして返しゃ、元の様にして返しゃ。胴欲な人々じゃなぁー。
浄瑠璃 <泣くより外の言葉なき、一間の内に声あって>
弁 慶 ヤア、ヤア、方々騒がれるな。武蔵坊弁慶、それへ参って事情つぶさに、言い聞かせん。
浄瑠璃 <弁慶、真ん中に、すっくと立ち・・>
弁 慶 これには段々深き仔細(しさい)のあること。とこ吠(ほえ)えずと、これを見よ。
浄瑠璃 <押肌脱げばこは如何(いか)に、下着の衣(きぬ)の紅に、大振り袖の伊達模様。おわさ、目早く・・・>
おわさ ヤヤ、その振り袖は?
弁 慶 オーサ、この片袖はそっちにあるはず。いつぞや播州福井村にて、しばしの仮寝。さては、汝(なんじ)であったよな。
おわさ エエッ、そんならお前がその時の、ああ、まあ、お稚児さんかいなあー。
弁 慶 オーサ、書写山の鬼若丸だ。
おわさ エー (しばし三味線) オー、そんならこの子は、お前の子じゃないかいなあー。
弁 慶 オーサ、初めてつら見る仮寝の父親。殺したはお主(しゅ)の身代りだー
おわさ ワァー
浄瑠璃 <ワァーと、ばかりに母親は、娘の傍(そば)に立ち寄って・・・>
おわさ コレ、しのぶ、コレしのぶ、あれを聞きゃったかいの。あれを聞きゃったかいの。そなたの父御(ててご)というはのう、あれにござる。アノ、べ、べ、べ・・・弁慶様じゃといの。ササササ、ちゃっと御対面申しゃいのう。
浄瑠璃 <と、抱き起せば、起されて>
しのぶ かかさん、何やらおっしゃるそうなが、耳が聞こえぬ、もう目が見えぬ。私しゃ今ここで殺されても、お主様の身代わりになると思えばうれしいが、親一人、子一人の・・・。
浄瑠璃 <私に別れて頼りない、お前のお身が案じられ、そればっかりが黄泉(よみじ)のさわり>
しのぶ イヤ申し、御夫婦様。頼りのないかかさん、どうーぞ、お頼み申します。また、かかさんも今からは、お二人さんを大切に、お身を大事に長生きして、ととさんにめぐり合い、仲よう暮らして下しゃんせ。また折々は私も・・・。
浄瑠璃 <ふびんと思い朝夕の、御回向(えこう)頼み上げまする。そればっかりがという声も、次第、次第にせぐりきて・・・>
おわさ これしのぶ、しっかりしやえ、、これしのぶ、しっかりしやえ。
浄瑠璃 <母は死がいを抱き上げ>
おわさ コレ、しのぶ、ま一度ものを言うてたも、もう一度言うてたも。これが一世の、これが一世の別れかいのうー。言うて返らぬ事ながら、背丈伸びるに従(したが)いて、ただととさんに逢いたいと、慕(した)う子よりもこの母が・・・。
浄瑠璃 <どうぞ逢いたい、逢いたいと、尋ねさまよい国々を、めぐりめぐりて今ここで、逢わぬがましであったもの、アアアー>
おわさ 死ぬる今はの際(きわ)までも、誠(まこと)の父と知らずして、母をかばいし心根が、いじらしいやら、不憫(ふびん)なやら。この胸を裂くような、こればっかりに引かされて。
浄瑠璃 <三途の川と、死出の山>
おわさ 迷うてたもんな、迷わぬよう。道は一筋、はるばるぞや。
浄瑠璃 <法の光や燈火(ともしび)の、影を力にとぼとぼと、歩む姿を目の先に、今見るように思われて、可愛いわいのとばかりにて、空しき死がいを抱きしめ、アアアー、声も惜しまず、泣き居たる。・・・弁慶、涙押し隠し>
弁 慶 最前よりの汝の話、聞くと等しく、さてはわが子と知るよりか。生き顔も見たかりしが、なまなか見つ見せては、未練な心も起らんものと、腕に任せてえぐりしもの。ナーニ、ひとたまりもこたえらりょうか。われ生れてよりこの年まで、後にも先にも、たった一度でござつた。アーア、ほて轉合(てんがう)な事をして、生れしわが子と聞くよりか、憎かろうか、可愛いかるまいか。そちがそのように泣くを見て、太郎夫婦が居やらずばと、泣くより泣かぬ、苦しみはな、ナナ、コリャー。
浄瑠璃 <鳴く蝉よりもなかなかに、鳴かぬ蛍が身を焦す。小唄もわが身に知られたり。これにつけても親の恩・・・。>
弁 慶 唐土(もろこし)のはんかいは、母の小袖を母衣(ほろ)と名づけ、戦場まで持ったりと聞く。それに学ぶにあらねども、この小袖は母の手づからたまわりしが、汝に片袖取られたれど、亡き母にそう心地して、縫いも直さずこのまま・・・。
浄瑠璃 <四国九国、一の谷へも押し立て、オオオ、押し立て>
弁 慶 あやうき難をのがれしも、これぞ一重に親の蔭(かげ)。年月重ね肌身離さず持ちし故、顔も知らず名も知らぬ、親と子が・・・。
浄瑠璃 <しるしとなって17年目に、めぐり逢い、主君の絶対絶命の大事のお役に立ったる事>
弁 慶 これぞ、一重に母の陰。この小袖に手を通し、親子一緒に引合せ給うか。ハハ、ハハ、ハハハハハーハ。
浄瑠璃 <無辺の親の慈悲>
弁 慶 オオ、よく死んだ。
浄瑠璃 <出かしたー>
弁 慶 せめて息あるその中に、われこその誠の父親ぞと。
浄瑠璃 <こんな顔(つら)でも見せたなら>
弁 慶 さぞ喜ばんものを。こればっかりが、こればっかりが、ザザザザ・・・残念だー。 (弁慶、大泣きする)
浄瑠璃 <生まれた時の産声より、ほかには泣かぬ弁慶の、三十余年の溜め涙、一度に乱すぞ、果てしなき。・・・武蔵は心を取り直し>
弁 慶 今なりしは、はや八つ時。卿の君の首受け取ろうか、侍従殿。
侍 従 オオ、心得たり。
浄瑠璃 <しのぶが死がい引寄せて、あえなく首を討ち落し、返す刀でわが弓手の脇にぐっと突立つれば・・・>
花の井 侍従殿、何故(なにゆえ)の御生害(しょうがい)。
弁 慶 こりゃ、侍従殿、何故の御生害。
侍 従 ヤレ騒がれるな、ム、武蔵殿。(苦しい息遣いで)卿の君の首、侍従太郎のこの首を、添えて渡せば天地を見抜く梶原も、造り花とはよも思うまい。
サササ、早う首打たれよ、ム、武蔵殿・・・。
弁 慶 オオ、心得たり
浄瑠璃 <心得たりと抜きはなし、ひらりと見えし刀の影、首は前にぞ落ちにける。立直って大音上・・・>
弁 慶 ヤー、門前に控えし武蔵が家来、ようーく聞け。卿の君の御首、侍従太郎が二つの首、ただ今受取り、立ち帰るぞ。
浄瑠璃 <それと知らすも胸あって、館に響く計りなり。すぐに袂(たもと)を押し切り、押し切り、二つの首を包むにあまる目にもる涙よ>
弁 慶 さらば、さらば、おさらばー(おわさ、花の井とのかけ合い)
浄瑠璃 <二つ嘆きを一筋に、見捨てて、御所へぞ立ち帰る。>
(幕)

平成15年10月19日 / 佐用郡南光町「上三河の舞台」での公演